第16回勉強会内容について

LIP勉強会は、今回も広尾にある「JICA地球ひろば」で開催されました。
行く度に雨に打たれているのは気のせいでしょうか…

I.報告会
【1】書籍『アフリカ苦悩する大陸』

アフリカ 苦悩する大陸

アフリカ 苦悩する大陸

1、感想

・アフリカの部外者であった著者が、7年間のアフリカ滞在の間に得た豊富な経験に基づいて、「なぜアフリカの経済発展は遅れているのか?」をテーマに書いた書籍。

・著者は、現状認識と主張のバランス感覚(客観性)に優れている。

・翻訳の質が高く、訳注も充実しているので、コストパフォーマンスの観点から、日本語版が原著に勝る可能性がある良書。

2、内容報告(以下の項目を基に行われた)

ジンバブエの要人達の特権濫用とジンバブエ国民の困窮

・天然資源が戦争を起こす

・インフォーマルな経済のデメリット

エイズが貧困を深刻にする

・部族主義、人種主義が対立を生む

・本当の援助は自由貿易である

・劣悪な道路と盗人警官が利益を蝕む

ハイテク技術は「貧困」を救えるか?

南アフリカアパルトヘイト

・結論

3、質疑応答その他

ジンバブエアンゴラの現在の状況について
ジンバブエにおいては大統領側と野党側とのパワーシェアリングが行われつつある。アンゴラにおいては、政権交代が生じている。

・アフリカの発展を阻害する関税障壁と、日本の米産業との間の類似性について。

・民族対立について
→元々存在する対立?あるいは、経済利権を背景として、植民地宗主国が意図的に造り出した産物?

・横たわるインフラ問題について
→法律、ロジスティクスの整備が不十分。しかし、整備すれば事態が好転するか? それらが遵守されるかどうか、効果的に運用されるかどうかは、人々のメンタリティーの問題なのではないか?

等々の意見が出た。


【2】週刊ダイアモンド特集『格差世襲』、大竹文雄『格差と希望』

格差と希望―誰が損をしているか?

格差と希望―誰が損をしているか?

1、内容

−進む二極化についてのデータ紹介(『格差世襲』より)

例:1997年から2006年にかけて、年収2000万円以上の所得者と200万円以下の人口は共に増加している等

−格差の実情について(『格差と希望』より)

・格差は、いきなり現在になって急に生じたものではなく、なだらかに生じてきたものであり、発生の背景には、人口の高齢化がある。また、格差は、特に高齢層と若年層で生じてきている。

・その格差問題が、なぜ最近になって問題とされてきているのか?

→将来における格差拡大予想、デフレ及び低成長の影響、若年失業やフリーターの存在など、7つの考えられる理由の紹介

・適切な対策とは?

→よく言われる、「雇用慣行を是正する」という処方箋が不適切(例:最低賃金を上げる。その結果、企業は新規雇用を減らしてしまう)。

☆処方箋:

 i)人材の流動化(一度の失敗が人生の終わりにならない)

 ii)教育の充実−教育がなされることで生産性が高まる。そのために教育コストを低めることが重要。公平性から問題なく、経済全体の底上げにも役立つので、公共性が高い分野。教育のコストの低下は経済学者にも評判がよい。

2、質疑その他

・他国の現状は?

→北欧は教育の低コスト化がなされていると思われる。その結果が学力テストに好成績に現れている。

・日本ではなぜできないか?

→高齢化が促進されている関係で、教育のコスト低下の議論が議題になりにくい(なぜなら、高齢層の投票を獲得するために、高齢層の投票行動につながりやすいアジェンダが取り上げられることになる。逆に、若年層はあまり投票行動にいかないので、教育のコスト低下というアジェンダの重要度は相対的に下がってしまう)

・教員の質が低下の問題について
→終身雇用の問題、女性の社会進出による人材の流出

☆質を上げるための処方箋は?
→教師の賃金を上げる、資格試験等を実施して教師のレベルを一定限度に保つなど。

・教育現場の構造的問題
→進学率が最も重要な指標となっている、政治との癒着が問題となっている私立学校もある。


II.LIPの今後の活動について

【教育活動】
・何を教えるか
一回限りの授業で出来ることとは?
知識,希望、勉強することの大切さ、楽しさ、自分が高校生の時に先生に一言言って欲しかったことをしゃべる、社会人と接点を持つということに意味がある、等の意見が出た。
・どこで教えるか?
私立では需要が少ない? 受験に無用なレクチャーは馬の耳に念仏になる可能性がある。やはり公立か、等の意見が出た。


◎次回勉強会の予定
日時:  10月12日(日曜日)午後6時から(もしくは5時から)
場所:  広尾のJICA地球ひろば
内容:  日本の医療制度について